「AIを入れたほうがいいのか」と同業の方から聞かれることが増えました。
私たちは工事会社ですが、自社の業務アプリ「anken.ai」を自分たちで作っていて、その中でもAIを使っています。この記事を書くときにも使っています。そのうえで、AIに任せていないこともあります。
3回に分けて、選ぶときの基準を書きます。第1回は選ぶ前の話です。
「どれが一番いいAIか」から入ると失敗します
比較記事はたくさんあります。ただ、**その比較はだいたい3か月で古くなります。**新しいものが出るたびに順番が入れ替わるからです。
もっと困るのは、順位を追いかけていると自分の仕事に当てはめる作業を飛ばしてしまうことです。「一番賢いらしいから入れた」だけでは、たいてい2週間で使わなくなります。
順番が逆です。先に決めるのは、何をさせるかです。
工事会社がAIに任せられること
実際に使ってみて、割に合ったのは次のようなものでした。
1. 長い文章を読んで、要点を出す
管理会社様から届く長いメール。仕様書。契約書のひな形。読むこと自体は難しくないが、時間がかかる類のものです。
「この文書で、うちが負担することになっている項目だけ挙げて」と頼めます。**ただし出てきた答えは自分で原文にあたって確認します。**ここは飛ばせません。
2. 文章を書く手前まで
見積の但し書き、工程が遅れるときのご連絡、募集要項、この記事のような文章。
**ゼロから書かせるのではなく、たたき台を出させて自分が直す。**この距離感がいちばん実用的でした。まっさらな状態から書き始めるのがいちばん時間を食うので、そこだけ肩代わりしてもらう形です。
3. 外国語のやり取り
弊社は代表をはじめ英語・タガログ語でも話せますが、書き言葉は別の負担です。契約や条件のように、あとで残る文章ほど神経を使います。ここは助かっています。
4. 分からない用語を聞く
新しい建材の規格、法改正の概要、聞いたことのない工法。**入り口として聞いて、そのあと公式の情報にあたる。**辞書というより、調べる方向を決めるための道具です。
5. ソフトを作る
これは特殊な例ですが、うちが業務アプリを自社で作れているのは、ここでAIを使えているからです。専業のエンジニアがいない会社でも、現場を知っている人間が手を動かせるようになりました。この話は別の記事に書きました。
任せていないこと
こちらのほうが大事だと思っています。
1. 現地を見ること
当たり前の話ですが、書いておきます。写真を見せて「これは張替えが必要か」と聞いても、決めさせません。
下地の傷み、湿気、においは写真に写りません。原状回復は開けてみないと分からない仕事です。画面越しに分かることには限界があるという前提を崩すと、後で必ず食い違います。
2. お客様に出す金額
見積の説明文は手伝ってもらいますが、金額そのものは人が決めます。
理由は簡単で、間違えたときに責任を取るのがこちらだからです。「AIがそう言ったので」は、お客様にとって何の説明にもなりません。
3. お客様の情報をそのまま入れること
物件名、住所、お客様のお名前、図面。そのまま入力しないというルールにしています。
契約の種類によって扱いは変わりますが(詳しくは第3回に書きます)、契約の中身より先に、社内の習慣を決めておくほうが確実だと考えました。
4. 最終確認
このOSノートの記事にも「AIが下書きし、担当者が確認した」と書いてあります。**確認するのは人です。**そこを省くなら、そもそも出さないほうがましだと思っています。
線の引き方
任せる/任せないの境目は、こう考えると決めやすいと思います。
間違えたときに、誰がどれだけ損をするか。
- 損をするのが自分だけで、間違いにすぐ気づける → 任せてよい(下書き、要約、調べ物)
- お客様が損をする、または間違いに気づきにくい → 任せない(金額、工事の要否、契約の判断)
これは、うちが現場で新人に仕事を任せるときの考え方とほとんど同じです。AIだから特別、ということはありません。
それでも入れる価値はあるのか
あると思っています。ただし、期待するところを間違えなければ、です。
**AIを入れて減るのは、工事の時間ではありません。**減るのは、文章を読む時間、書き始める前に固まっている時間、調べ方を探している時間です。
うちの場合、**その時間はもともと夜と休日に食い込んでいました。**そこが減ったことが、いちばん実感のある変化でした。
この連載
- どれを使うかより、何を任せないかを先に決める(この記事)
- Claude・ChatGPT・Gemini を仕事で使い分ける
- 情報の扱いと料金 ― 契約する前に見るところ
